書評:歴史をつかむ技法

【書名】歴史をつかむ技法【著者】山本 博文【発行】新潮社(新潮新書)【評価】B【書評】本書は少々風変わりな書です。本書はざっと読むのに適した書だからです。本書の初版は平成25年で,発刊後間もない頃に私は本書を一度通読し,そのときは,それなりに参考になりました。それは,古代から近代までの日本史をざっとおさらいするには適度なまとまりがあったからです。この「適度なまとまりがある」という印象は正しかったと思います。今でも,一般の方々がざっと読むには良い書だと思います。しかし,今回,レビューをするために丁寧に読み直したところ,著者の考え方や,ひいては日本の歴史学研究にいくつか疑問があることに気づきました。著者は,学校教育で学ぶ歴史は知識偏重となっており,学んだ知識を生かす「歴史的思考力」の育成が不十分なため,人々は中学・高校で歴史を学んだにもかかわらず「歴史を学んだ実感や手ごたえが無い」と感じている,そこで本書はそれを補う意味で,歴史を学ぶときの基本的な見方・考え方,すなわち「歴史を学び,探求する上で必要な,理性的で,論理に沿った,基礎的な思考の方法」を提示したいと本書の著作意図を述べています(「はじめに」の項より)。しかしながら,本書の前提となる学校教育に関する著者の理解は,メディア報道を鵜呑みにした教育論にありがちな素朴な誤解です。歴史に限らず,中学・高校で学んだ教科に関して,社会に出て10年も20年も経った後に“学んだ実感や手ごたえ”を感じている方がどれ程いるでしょう。そもそも,小・中・高の学校教育は,卒業後もずっと“学んだ実感や手ごたえ”を感じ続けてもらうことを意図していないのです。【Tags】山本博文,歴史をつかむ技法,歴史的思考力,日本史,歴史の法則,時代区分,血筋,武家政権,鎌倉幕府,室町幕府,織豊政権,江戸幕府,明治維新,司馬史観

書評:神仏習合

【書名】神仏習合【著者】義江 彰夫【発行】岩波書店(岩波新書)【評価】A【書評】本書は時代と共に様相が進化する神仏習合とよばれる過程を,できる限り,その時代の社会構造ないし政治的・社会的状況との関係において論じようとしており,神仏習合の歴史にひとつの視点を提供する書となっています。特に,神が仏教に帰依したいと託宣を下し,それに呼応して地方豪族の手によって神社境内もしくはその近隣に神宮寺が建立される“神身離脱と神宮寺建立”という一連のシナリオが日本各地に広まる,いわゆる神仏習合の初期過程については,当時の政治的・社会的要因との関連で非常に分かりやすく説明されており,本書は良書といえるでしょう。(中途略)筆者はどうやら,神仏習合をもっぱら形式的な混交とみているようなのです。すなわち,神社で仏僧が読経をすればそれは神仏習合である,というように。確かにそれも神仏習合のひとつの側面とは思いますが,神仏習合はもう少し複雑なはずです。例えば,筆者も本書で最初に扱っている神宮寺ですが,その建立に貢献した仏僧を筆者は遊行僧とよんでいますが,この遊行僧とは修行僧,それも基本的には山岳修行僧のことです。山岳修行僧とは,奥深い山もしくは険しい山岳に入り仏道(特に呪術)の修行に励んだ仏僧のことですが,彼らがなぜ修行地として山を選んだかといえば,それは山が神祇信仰ないし山岳信仰の対象たる神々が住まわれる聖なる場所であり,そこで修行をすることで,彼らは神々の霊力を獲得しようとしたからに他なりません。すなわち,山岳修行僧自身が神仏習合を体現するモデルでもあったわけです。【Tags】義江彰夫,神仏習合,神宮寺,多度大神,巫女,託宣,神道,神祇信仰,基層信仰,仏教,雑密,大乗密教,普遍宗教,王権,怨霊信仰,ケガレ忌避,穢れ,浄土信仰,本地垂迹説,反本地垂迹説,中世日本紀

書評:応仁の乱

【書名】応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱【著者】呉座勇一【発行】中央公論新社(中公新書)【評価】B【書評】歴史学研究者は,わずか一冊の歴史書を書き上げるために,長い時間をかけて膨大な史料と格闘し,ひとつひとつの史実を洗い出し,それらを整理・検討したうえで稿を起こしておられると思います。そのような歴史学研究者の方々の真摯な,そして尊い努力を承知しつつ,あえて申し上げるのですが,本書を読み終えて,歴史学研究者には歴史をトレースすることはできても,歴史を評価することはできないのだと改めて痛感しました。本書は新書でありながら300頁のボリュームがあり,いくつもの戦乱が11年にわたり引き続いた非常に分かりにくい大乱である応仁の乱を丁寧に解説した歴史書となっています。それが900円という価格で手に入るのですから,日本の新書文化は本当に素晴らしいと思います。歴史を知るという意味であれば,本書は良書の範疇に入るといって差し支えないと思います。しかしながら,歴史とは,そこから何かを学び取るために学ぶものと私は常日頃考えています。では,本書に描かれた応仁の乱の歴史から,いったい私たちは何を学び取ることができるのかということを考えたとき,本書の記述内容にはいささか不満が残ります。著者は応仁の乱を評価していないのです。それを評価する材料も本書にはなさそうなのです。【Tags】呉座勇一,応仁の乱,室町幕府,興福寺,経覚,尋尊,経覚私要鈔,大乗院寺社雑事記,足利義教,足利義政,足利義尚,足利義視,南北朝,後南北朝,大和,衆徒,国民,土一揆,畠山政長,畠山義就,細川勝元,山名宗全

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