【書名】教育格差──階層・地域・学歴【著者】松岡亮二【発行】筑摩書房(ちくま新書)【評価】C【書評】本書は教育格差という問題を教育社会学的に論じた書ですが,気がかりな点が多く,恣意的・差別的と批判されてもしかるべきかと思います。著者が気づかなくても編集段階で気づけば,修正する手立てはいくらもあったはずですが,編集者は本書の内容を十分理解できなかったか,あるいは,気づいていても著者を説得できなかったのかもしれません。本書でまず気になるのが,冒頭の「はじめに」に記された次の一節です。
『こんな現実の中で教育社会学の研究者である私にできることは,入手可能な質の高い様々な調査データを理論と先行研究に基づいて分析し論文にすることだ。そう信じてアメリカ合衆国で博士号を取得後,2012~19年の間に国内外の学術誌で20編の査読付き論文を発表してきた。ただ,これだけではいつまで経っても物事は変わりそうにない。そもそも16編は英字論文であるし,同業である研究者向けに書いているので,一般のみなさんに届くわけもない。そこで,過大評価も過小評価もせずに現時点でわかっている教育格差の全体像を一人でも多くのみなさんと共有することで,既視感だらけの教育論議を次の段階に引き上げることができればと本書を執筆することにした。』(p17)
(中略)著者は博士号という最高位の学歴を獲得し,さらに,わずか7~8年の間に査読付き論文を20編も発表したとのことですから,著者がきわめて優秀な頭脳と研究者として並外れた業績をお持ちの方であることがわかります。しかしながら,本書の本論で教育格差,例えば親の学歴が低いと子どもの学力が低くなる傾向があるなど,親の学歴が影響しているであろう問題を論じようとする矢先に,なぜ著者は自身が最高位の学歴とずば抜けた研究業績を持つことをこのように強調するのでしょうか。【Tags】松岡亮二,教育社会学,教育格差,学力格差,学歴格差,学校間格差,地域格差,階層格差,階層,社会経済的地位(SES),文化資本,再生産,経験蓄積格差,通塾率,SSM(社会階層と社会移動に関する全国調査),SSP(階層と社会意識全国調査),TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)