【書名】神道入門 民族伝承学から日本文化を読む
【著者】新谷尚紀
【発行】筑摩書房(ちくま新書)
【目次】第一章 日本書紀の「神道」1.孤立している日本書紀,2.惟神(かむながら)の意味,3.日本書紀の「神道」と「惟神」;第二章 古代神道─古代国家と古代天皇1.律令制下の神祇祭祀,2.儒教道徳や仏教信仰の浸透;第三章 神身離脱と三宝帰依1.神々の託宣と神宮寺建立,2.包括力の強い「神道」という語,3.幣帛班給制の解体;第四章 中世神道─混沌と創造1.律令官人と日本書紀の講筵,2.律令祭祀制から平安祭祀制へ─「二十二社・一宮制」と「王城鎮守・国鎮守」,3.御霊信仰と祇園御霊会,4.仏教神道と本地垂迹説,5.伊勢神宮と伊勢神道,6.中世神道の神々,7.卜部兼倶と唯一神道;第五章 近世神道─学問と世俗1.近世の儒家神道,2.近世の吉田神道,3.平田篤胤と復古神道;第六章 近代立憲国家の近代神道1.明治新政府の神道政策,2.国家神道,3.国家神道の形成過程,4.国家神道の内容;第七章 現代社会の神社神道1.神社本庁と神社神道,2.現在の神職養成
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【評価】C
【評者】Vincent A.
【書評】残念ながら本書も神道の入門書としては落第です。「本書も」というのは,直近にレビューした「神道入門 日本人にとって神とは何か」(平凡社新書:井上順孝著)と同様に,という意です。本書は古神道の時代から国家神道の時代までの神道の歴史を網羅的に扱っており,「神道の歴史」というタイトルであれば評価は違っていたでしょう。
神道入門書として評価が低い理由は,井上順孝著「神道入門」と同様で,神・神々に関する記述がきわめて乏しいことです。神は神道の中心であり,神の存在なくして神道は成り立たないのですから,その神を抜きに神道の本質を語るのはそもそも無理なのです。本書は歴史上の事実を時系列的に並べた歴史書なのです。しかし歴史を事細かに記しただけでは,神道において神とはどのような存在であるのか,私たちは神をどうとらえるべきか,神・神々と人々はどのような関係であり続けてきたのかなどを理解することは難しいでしょう。
井上順孝著「神道入門」のレビューでも記しましたが,例えばキリスト教の入門書に神,キリスト,創造主などが具体的に説明されていないとすれば,その書を読んでもキリスト教の本質がわかるはずがありません。本書を読んで,井上順孝著「神道入門」と同様の不満を感じます。
私(評者)は以前,神道に関する初学者向けの廉価な新書を探していた時期があり,本書もその頃に手にしました。本書には「民族伝承学から日本文化を読む」というサブタイトルが付されており,著者の専門が日本民俗学・民族伝承学となっていますので期待していたのです。なぜかというと,神は不可知の存在で,特殊な能力をもたない普通の人びとには姿をみることも,声を聞くこともできません。このように不可知であるがゆえに,神に対する人びとの認識は個々人により,村々により,そして地方により異なっているはずなのです。民俗学・民族伝承学が専門の著者ならば,いくつもの地域の様々な伝承や習俗を観察し,人びとの言葉に耳をかたむけることで,神に対する地域ごとの認識の違いや共通点を浮き彫りにすることができ,結果として,日本人のなかで神がどのような存在であったのかを直裁に述べることができるはずと考えたからです。
しかし,その期待は外れました。本書の紙幅の大半は文献研究にもとづく理論的考察に費やされており,民俗学・伝承学による知見がほとんど顔を出していないのです。非常に残念です。これではサブタイトルにあえて民族伝承学をうたう必要はないように思います。
本書と井上順孝著「神道入門」にはもうひとつ共通点があります。井上氏と同様,本書著者の新谷尚紀氏も國學院大學の教授なのです(執筆時)。神道入門は大学の講座でいえば「神道(学)概論」のようなもので,神職をめざす新入生や低年次生が履修する必修科目ではないかと思います。
井上教授と新谷教授がどのような講座を担当されておられる(おられた)のか,そして両教授が國學院大學(大学院)の教授陣のなかでどのような位置におられる(おられた)のかは存じません。また,新書の内容が必ずしも大学の授業内容を反映しているとは限らないことも承知しています。しかし,それでも國學院大學のふたりの教授が著した神道入門書のいずれもが,神道史には詳しいが神道の中心にある神・神々についての記述は貧弱であるということは,もしかすると,神職養成をうたう國學院大學で現在行われている神道教育,すなわち神職養成教育が,“神道とは神道史なり”のような誤った理念にもとづいているのではないかという危惧すら抱いてしまいます。ただ,これは書評の域を超えますので,ここで論ずべき問題ではないでしょう。
*初稿2020/03/12