【書名】日本の神々
【著者】谷川 健一
【発行】岩波書店(岩波新書)
【目次】第1章 神(カミ)・祖霊(タマ)・妖怪(モノ);第2章 外来魂と守護神;第3章 流竄(るざん)の神々:第4章 創世神話の展開;第5章 生き神の思想と御霊信仰;第6章 神観念の拡大;第7章 神々を運ぶ海上の道;終章 回想の神々
【Tags】谷川健一,神,神霊,神々の原型,原初の神々,神道,神社,寓話,神話,御霊信仰,祖神祭,神女,オナリ神,祭の観光化

【評価】A
【評者】Vincent A.
【書評】本書は間違いなく良書です。しかし,本書のタイトルにはやや納得がいきません。本書は単に日本各地の神々の特徴やその逸話について述べたものではないからです。新書本のタイトルには,編集者の意向がはたらくのか,内容を正しく表さないものが多く,結果として「新書文化」全体の価値をおとしめているのは残念です。

本書のねらいは「日本の神々の原型の素描」(あとがき冒頭)にあります。すなわち,国家神道や一部の神社神道のように,人間の欲望,虚栄心,猜疑心,コンプレックス,不安,恐怖,ねたみ,憎悪など,仏法的にいえばまさに人間の愚かしい煩悩に神々が翻弄される前の,原初の神々の姿を求めて,筆者が40年もの歳月をかけて各地の小さな神社を訪ね歩いた旅をまとめたのが本書です。したがって,本書にはせめて『日本の神々──原初の神々の姿をもとめて』のようにサブタイトルを付すべきだったように思います。

本書には読み方があるように思います。精読する,すなわち,知識を得る(整理する)ために本書を丹念に読むのも,もちろん,ひとつの読み方だと思いますが,ただ,それは本書の「まっとうな」読み方ではないような気がします。ややオカルト集団の説教めいたいい方になりますが,本書は神や神霊の存在を感じながら読むべき書ではないかと思います。まさに自然の一部として生きていた古代の人々が神・神霊をどのように知覚し,畏れ,敬っていたのかを想像しながら神にまつわる各地の言い伝えや寓話を知り,神とともに生きるというのはこういうことなのかとわかる(わかるような気がする)ようになることが,本書の読み方のように思います。

それを最も強く感じたのは「終章 回想の神々」に記された宮古島の祖神(うやかん)祭の神女(つかさ)たちの行動描写と,「あとがき」に記された「オナリ神の信仰」の「イザイホーの祭り」における神女たちの行動描写です。この記述は特に一読の価値ありと思います。有名神社の「祭り」が観光化し「festival」となって久しいのですが,この記述を読むと,祭りを観光資源や地域振興の道具とすることのむなしさ,悲しさがよくわかります。

*初稿2016/09/17,更新2018/06/01
*本稿はdiscoverjaponism.comに掲載されていた同名記事に一部修正を加えたものです。

書評:日本の神々

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